イエス様の誕生

主日CS合同クリスマス礼拝説教

齋藤 正 牧師

《賛美歌》

讃美歌7番
讃美歌94番
讃美歌108番

《聖書箇所》

旧約聖書:イザヤ書 9章5節 (旧約聖書1,074ページ)

9:5 ひとりのみどりごがわたしたちのために生まれた。ひとりの男の子がわたしたちに与えられた。権威が彼の肩にある。その名は、「驚くべき指導者、力ある神/永遠の父、平和の君」と唱えられる。

新約聖書:ルカによる福音書 2章1-7節 (新約聖書102ページ)

2:1 そのころ、皇帝アウグストゥスから全領土の住民に、登録をせよとの勅令が出た。
2:2 これは、キリニウスがシリア州の総督であったときに行われた最初の住民登録である。
2:3 人々は皆、登録するためにおのおの自分の町へ旅立った。
2:4 ヨセフもダビデの家に属し、その血筋であったので、ガリラヤの町ナザレから、ユダヤのベツレヘムというダビデの町へ上って行った。
2:5 身ごもっていた、いいなずけのマリアと一緒に登録するためである。
2:6 ところが、彼らがベツレヘムにいるうちに、マリアは月が満ちて、
2:7 初めての子を産み、布にくるんで飼い葉桶に寝かせた。宿屋には彼らの泊まる場所がなかったからである。

《説教》『イエス様の誕生』

主イエスの誕生を語るこの箇所は、「そのころ、皇帝アウグストゥスから全領土の住民に、登録をせよとの勅令が出た」という書き出しで始まっています。皇帝アウグストゥスとは、ローマ帝国の最初の皇帝です。彼の時代から、ローマは共和国から皇帝の治める帝国になったのです。彼はオクタヴィアヌスという名前でしたが、紀元前44年に暗殺されたユリウス・カエサルの養子、後継者となり、カエサル亡き後の長い内戦に終止符を打ち、勝利者となりました。ローマの元老院は紀元前27年に彼に「アウグストゥス」という尊称を贈りました。権限を得た彼は次第に帝政を敷き、ローマは共和国から皇帝の治める帝国となったのです。このおよそ百年後にルカはこの福音書を書いたのです。

さてこの皇帝アウグストゥスが、「全領土の住民に、登録をせよとの勅令」を出したとあります。これは、人口調査のための住民登録です。人口調査はそれぞれの地域に住む人々の数や経済状態、生活の様子を調べることによって政策決定の基礎データを収集するために行われました。アウグストゥスはその治世の間に三度この調査を行いました。ルカが福音書を書いたこの時、ユダヤはヘロデが王である王国でした。形は独立国家の王国でしたが、ユダヤは既に事実上ローマの支配下にあり、ローマ帝国の住民登録の対象になっていたのです。1節には、この住民登録が「キリニウスがシリア州の総督であったときに行われた最初の」ものだったとあります。このキリニウスとは、長くローマ帝国シリア州の総督を務めた人です。ただし、主イエスがお生まれになった時の住民登録が、キリニウスがシリア州の総督であったということについては、歴史的に疑問がある様です。さらに、3節の「人々は皆、登録するためにおのおの自分の町へ旅立った」ということも疑問です。果して当時の住民登録がここに語られているように、おのおのが先祖の町、いわば本籍地に行って登録するという仕方で行われたのかどうかはかなり疑問です。父のヨセフもそうであったように、本籍地を離れて暮らしていた人も多かった筈です。それらの人々がいっせいに本籍地に戻って登録をするなどというのは現実離れしているように思われます。むしろ、私たちの現在の国勢調査がそうであるように、今住んでいる所で登録をした方が現状が把握できてよい筈です。ですから、このような方法での住民登録が本当に行われたのかどうかは、かなり疑問があるのです。

ローマ皇帝アウグストゥスについて、そして主イエスがお生まれになった時のユダヤの状況について見てきましたが、それでは、本日のこの主イエス誕生の物語でルカは何を語ろうとしているのでしょうか。

当時の人々にとって、ローマ帝国こそが様々な民族を包み込むすべての世界でした。ローマ帝国が全世界であり、その外のことは人々に知られていなかったのです。ですから、ローマ皇帝は全世界の支配者だったのです。そのローマ皇帝の支配下でヨセフとマリアが旅をして、その旅先で主イエスがお生まれになったと語ることによって、主イエスの誕生が、この世界全体の政治的、経済的、軍事的な動き、支配と深く結びついた出来事であることを語ろうとしているのです。

しかしそれは主イエスもこれらの政治的支配に従属している、ということではありません。ルカは第1章で、生まれてくる主イエスが、いと高き方である神の子であり、神の民の王ダビデの王座を受け継ぎ、神様の救いにあずかる民を永遠に支配する方であることを語ってきました。神の子主イエスこそまことの王、支配者であられるのです。ですからルカはここで世界の支配者皇帝アウグストゥスの名を挙げることによって、主イエスとアウグストゥスとを並べて、いったいどちらが本当の王、支配者なのか、という問いを読む者に提起しているとも言えます。実際当時のローマ帝国では、アウグストゥスのことを「救い主」と呼び、その誕生日を「福音」救いをもたらす良い知らせとして祝うということがなされていたようです。ルカはそのような中で、本当の救い主は誰なのか、本当の良い知らせとは何なのか、誰の誕生をこそ本当に福音として喜ぶべきなのか、ということを問いかけているのです。

加えてルカが、歴史的事実とは必ずしも一致しなくても、この住民登録の物語によって主イエスの誕生を語っているのは、主イエスがベツレヘムでお生まれになることが実現したことを語るためです。ガリラヤのナザレに住んでいたヨセフとマリアがベツレヘムで出産をする必然性など少しもないのです。しかし皇帝アウグストゥスのあの勅令のために、彼らは身重の体でベツレヘムまで旅をすることになり、そしてベツレヘムで主イエスが生まれたのです。では、ベツレヘムで生まれるということにどういう意味があるのでしょうか。そのことが4節に語られています。ヨセフはダビデの家に属し、その血筋だった。ユダヤの繁栄の頂点だったダビデ王の子孫だったのです。ベツレヘムはダビデ王の出身地です。そこにヨセフの本籍もあり、彼は身ごもっていたいいなずけのマリアを連れて、そこへ登録に行ったのです。それによって、旧約聖書ミカ書5章1節の預言が成就したのです。そこにこうあります。「エフラタのベツレヘムよ。お前はユダの氏族の中でいと小さき者。お前の中から、わたしのためにイスラエルを治める者が出る。彼の出生は古く、永遠の昔にさかのぼる」。神様の民イスラエルを治める者、本当の支配者であり救い主である方が、ベツレヘムで、ダビデの子孫から生まれるという預言です。また本日読まれましたイザヤ書9章5節には「ひとりのみどりごがわたしたちのために生まれた。ひとりの男の子がわたしたちに与えられた。権威が彼の肩にある。その名は、『驚くべき指導者、力ある神/永遠の父、平和の君』と唱えられる」とあります。主イエスがベツレヘムでお生まれになったことによって、ダビデ王に優る統治者、いや、ローマ皇帝をも凌ぐ「救い主」が生まれるという、これらの預言が実現したのです。主イエスがベツレヘムでお生まれになったのは、主なる神様が前もって計画し、旧約聖書で告げておられたご計画の成就、み心の実現だったのです。皇帝アウグストゥスの勅令は、主なる神様の救いのご計画、み業の中にあり、ベツレへムでの救い主の誕生という預言の成就のために用いられたのです。主なる神様こそ、皇帝をも用いて私たちの救いのためのみ心を実現して下さる本当の支配者なのです。ルカが主イエスの誕生をこのように描いたのは、そのことを語るためであり、私たちがこの箇所から聞き取るべき最も大事なこともこのことなのです。

世界の歴史を本当に支配し、導き、用いておられたのは主なる神様です。神様はこの不安や悲しみに満ちた現実のこの世界の中に御子を誕生させ、飼い葉桶の中に寝かせて下さいました。この飼い葉桶は、御子イエスが歩まれるご生涯を、とりわけ私たちを救うための十字架の贖いの死を暗示しています。神様は主イエスの苦しみと十字架の死とによって私たちのための救いのみ業を成し遂げて下さり、復活によって私たちにも、死に勝利する新しい命の約束を与えて下さったのです。

今日のクリスマスに生まれて来られた御子、主イエス・キリストこそが私たちの「救い主」「メシア」「キリスト」です。お祈りを致します。

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